FX投資家が困る円高。為替相場はどうなる?

当面1ドル80円台前半で推移。年後半は90円まで円安が進む

震災後、多くのFX投資家が悩んだはずだ。なぜ、先行き不透明な日本の通貨円が買われるのか?しかし、これは一時的な為替相場の動きに過ぎないのでは?見る。FX投資家の声なき疑問にこたえる形で考えてみたい。テーマは為替相場におけるドル円の反転のタイミング。FX投資家が待ち望む円安はくるのか?

 

多くの日本人は、東日本大震災後の円相場の動きに首をひねったに違いない。震災によって、日本経済は大打撃を被ったのだから、円安が進行するはずなのに、現実には円高になったからだ。

 

震災前の3月10日の円相場(東京市場)の終値は対ドルで82円98銭、対ユーロで114円48銭だったが、翌週の16日には終値が対ドルで77円75銭、対ユーロで108円50銭と急激に上昇した。

 

震災直後の市場では日本の金融機関が復興資金や地震保険の保険金の支払い原資を確保するために保有する外貨建て資産を売却する、との憶測か流れた。しかし、実際には「日本の投資家に外貨建て資産を売却するような動きはなかった」(国内証券)と見られる。そもそも銀行や生命保険会社が外国債券に投資するに当たっては、為替ヘッジをかけるケースがほとんどである。すでに、ドルを円に替える取引をすましているのだから、ヘッジ付きの外債を売っても円とドルの需給関係に影響は与えない。

 

また、「ヘッジ付きの外債のりターンは日本国債など国内債券より高い」と見られており、資金調達のために売るなら外債ではなく日本国債が標的となったはずだ。地震保険をめぐる思惑も日本の地震保険の仕組みに対する知識がないために流布したものだ。支払い保険金額が1150億円を超えた場合には、超過分を政府と折半する。さらに、民間の保険会社の負担分については全額再保険がかけられている。だから、即座に外貨建て資産を売却するような事態に追い込まれることはない。

 

これでわかるように震災後の円高の急速な進行は、投機筋が市場に流布した憶測に乗じるかたちで、円買いを仕掛けたがゆえに起きたのだった。投機筋の動向を映すとされるシカゴマーカンタイル取引所の円通貨先物のノンコマーシヤルトレーダーの買い越し幅を見ると、3月15日時点で8日の約2倍に当たる3万0320枚に達した。震災後に投機筋がいかに円を買い進んだかがわかる。16日には円相場は1ドル=80円台を割り、ニューヨーク市場で戦後最高値79円75銭を更新し、一時76円台を付けた。

目先は円高

ここで、日本の銀行が輸入企業のドル買い注文を集め、翌17日の東京市場では79円台にまで戻した。さらに18日には急激な円高を抑制し、日本経済の復興を支援するために日本、米国、欧州の円売り協調介入が実施され、円相場は対ドルでさらに81円台まで押し戻された。対ユーロでも108円台から114円台にまで下落した。

 

ただ、2000年9月のユーロ買い介入以来10年半ぶりの協調介入という強力な円高抑制策が講じられたにもかかわらず、その後も1ドル=81〜82円台で推移している。
大きく円安に反転しないのは、じつは目先の需給要因が円高方向に作用しているからだ。

 

少なからぬ日本の輸出企業は為替のヘッジコストを抑制するために、ドルを売る権利をノックアウトオプションのかたちで購入していた。この場合のノックアウトオプションとは、円相場が上昇し一定の水準を付けた時点でドルを売るオプション自体が消滅するというものだ。消滅条件が付いているぶん、通常のオプションより安く購入できる。

 

消滅する水準の多くが戦後最高値であったIドル=79円75銭前後に設定されていた。そのため、日本の輸出企業は17日に戦後量局値が更新されたことで、ヘッジのため
のドル売りオプションを失ってしまった。失ったぶんのヘッジに見合うドル売りのオプションや為替予約などを購入しなければならない。これは当然、円高方向に作用する。

 

また、リーマンショック後の為替相場がそうであったように、大規模なショックが市場を襲ったときには、投機的な動きがなくても円か高くなりやすい。なぜなら、リスクを抑制するために内外投資家は買いにせよ売りにせよ、大きなポジションを持つのを避けようとするからだ。

 

そうなると、為替の実需の取引の相場への影響が大きくなる。実需とは、貿易や海外との配当などのやりとりだ。経常収支の黒字国であり、対外債権国である日本の通貨である円は高くなることになる。

 

今後も再び1ドル=80円を割り込むような円高に対しては、介入が実施されると見られる。一方で、しばらくは大きく円安に振れることも考えにくく、80円台前半で推移するだろう。しかし、年後半に入り復興に向けた動きが顕在化してくれば、円相場は下落し始める公算が大きい。

 

要因の一つは欧州や米国との金利差拡大である。日本銀行は復興支援や、震災による停滞を余儀なくされる景気下支えのために、金融緩和を継続せざるをえない。長
期金利も、復興需要に伴う財政拡大は上昇要因だが、運用難にあえぐ金融機関が日本国債を購入せざるをえない構造が崩れない以上、大きく上昇することはないと見られる。

 

一方、米国やユーロ圏にはインフレの足音が忍び寄りつつある。3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRB(米連邦準備制度理事会)はエネルギー価格上昇でインフレ圧力が増していると見解を示している。消費者物価の前年同月比上昇率は10年12月以降、3ヵ月連続で上昇し、2月は2.3%となった。FRBは6月には予想どおり量的緩和第2弾(QE2)を終了するだろう。年内にFF(フェデラルファンド)レー・トを引き上げると見る市場関係者も増えている。